2004年09月09日 (木)

回りくどい

我輩は施主である(※) のエントリーで同著を「回りくどい」と数ページ読んだだけの私は評していたが、その理由がもう数ページ読み進めることで不意にわかった気がした。
しかし、こういうことって本当に読み進めているうちに不意に見えてくるもので、決してどのページのどの行がそう判じさせたというものではない。と既にこのエントリー自体が回りくどくなってきているので本題に入るが、なぜに赤瀬川原平氏の『我輩は施主である』が回りくどく感じられたかと言えば、それは氏が施主であり、読者の私も施主だったからである。

現代美術あがりでおそらく著作活動には照れというのもあるのだろう。どこか冗談めかした氏の文体はもともと回りくどさを兼ね備えていたと言えなくもない。だが、それは氏の持ち味であり、むしろ私はそれを氏一連のユーモアとして好意的に読めていたはずである。ところが『我輩は施主である』だけは私にとってどうも本当に回りくどい(今風にいえばウザい)のである。その理由はさきほど示した通りだが、それはおそらく施主になったことのない読者が読んでる限りはウザいと感じられるほどには回りくどくないという逆命題に繋がるはずだ。

もう少し具体的に書こう。
赤瀬川氏も本書のはじめの方(文庫本16P)で「施主」と「素人」を結びつけるが、世の多くの施主は家作りに対し素人で始まり、計画〜契約〜工事へと至る過程で建築に関する特殊な知識を身につけ、竣工する頃には一端の玄人さんになっている。ところがそうした経験を活かしてまた次の家を建てる機会に恵まれる施主はほんの一握りしかいない。多くの施主にとって家作りとは人生で1回限りのものなのだ。

昔であればそうした1回きりの豊穣な経験は、家の完成と共に日常の中で埋もれていくか、せいぜいが新しく家を建てようとする身内や友人たちの相談相手となることで役立つ機会が保たれていたようなものだろう。
しかし、インターネットというメディアが普及というレベルを超えて定着した近年、多くの施主たちは自身の施主体験を日記を基本とする様々な形で公開し始めている。この谷中M類栖もそのうちの一つだが、特にブログ(Weblog)というツールの出現はその傾向を加速させるに違いない。私も含め、なぜ多くの施主たちがこうして家作りの体験記を書いているかといえば、間違いなくそれは「自分が今、トンでもない経験をしている」と思っているからだ。さらには、ある程度の施主玄人になってくると「こうした自分の過剰な体験をこれから施主になろうとしている人に伝えてあげたい(素人だったときの自分に諭すように)」という妙な使命感まで湧いてくる。とにかく建築業界というところは言葉も習慣も一般生活者には不馴れな閉鎖したところなのだ。そんな世界を戦い抜いてきた多くの先進の施主たちは、そんな異様な世界を歩いてきただけに、後進の施主素人たちにはなるべく道を広く開けておきたいという親切心に充ち満ちている。

そして赤瀬川氏の『我輩は施主である』もまったくその例に漏れない著作だと言っていい。施主素人に対して物凄く親切に書かれているのだ。まして本書は単なる体験記ではなく、体験的超物件小説である。小説なのにこんなに親切でいいのか?と言いたいところであるが、ただ、この親切ぶりこそが文体とは別のところで施主玄人になってしまった者にとっては「回りくどい」という致命的欠陥に結びついてしまっているのだ。

しかし、ここで赤瀬川氏が反省する必要はまったくない。なぜなら、この「回りくどさ」という致命傷は建築業界の閉鎖性の中にこそあるものだからだ。何しろこれまでの建築体験それ自体回りくどかったのであるから。。まるで昨今の合併問題に揺れるプロ野球界のような話だね(^^;)

by m-louis : 2004.09.09 23:13
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2004年09月15日 12:13
施主じゃない人のBLOG
excerpt: 谷中M類栖さんの施主blog考にTB. 私も含め、なぜ多くの施主たちがこうして家作りの体験記を書いているかといえば、間違いなくそれは「自分が今、トンでもない経験をしている」と思っているからだ。さらには、ある程度の施主玄人になってくると「こうした自分の過剰な体.
weblog:  家について記録。もしくは妄想。
comment

一つ補足しておくと、しかし我々にとってラッキーだったのは阿部建築も初音すまい研究所もむしろ建築業界の閉鎖性を打破しようとする姿勢(それも挑発的にではなく、あっけらかんと)が垣間見られること、また今後もいろんな形でお付き合いが続きそうなことです。
彼らとは回りくどい手続きでもそれなりに楽しんで進めてくることができました。

by m-louis : 2004.09.14 06:25









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