2006年08月18日 (金)

『ザ・藤森照信』現物×模型

諏訪の高過庵を見に行ったゴリモンさんのエントリー「木の上に住んでみたい♪」コメントで、X-Knowledge HOME 特別編集 No.7『ザ・藤森照信』を紹介しておきながら自分は目を通してないというのも何なので、本日、堂島のジュンク堂で買ってきた。

まだパラパラと写真を見ながら、藤森照信×岡崎乾二郎=対談「最後に残る建築は?」しか読んでないのだが、藤森建築撮り下ろしと称する写真、これがふだん建築雑誌等で見掛ける写真とちょっと違う。というか、ゴリモンさんが Photoshop 加工して最近よく遊んでられる「箱庭梅田」写真にそっくり? てゆーかゴリモンさん、それらの写真を指して"本城直季もどき"って書かれてたんだけど、『ザ・藤森照信』の撮影者とはまさしく本城直季氏ご当人だったのである。

高額な建築雑誌を買えない身分の藤森ファンの一人としては、建築雑誌でしか見られなかった藤森建築写真も所収されているということで、フツウの建築写真(写真としての作品色の強くない)を期待していたのだが、それはあくまでプチマニアックな個人的所有欲ということで本城直季氏の写真を採用した編集方針の是非についてはさておく。

しかし、私が興味深かったのは藤森×岡崎対談の中で、藤森氏が神長官守矢史料館の実物をオープン前に見たらそれが模型に見えてしまって恐怖を覚えたと告白していることである。この告白があって本城直季氏が撮影者として選ばれたのかはわからないが、この実物/模型についての話は建築論としても写真論としても面白く読めるので、以下に引用しておく。

藤森照信×岡崎乾二郎=対談「最後に残る建築は?」(『ザ・藤森照信』P.126)神長官守矢史料館(1991)を作った時にものすごいショックを受けたのは、作ってオープン前ですけど、見ているとなんか実物が模型に見えた。ものすごい恐怖でさ。それは実は草の生え方の問題だったんです。地べたと土蔵のほうの外壁は、湿気の問題で切ってあるんですよ。スーと線で空いてた。あわててそこへ土を盛ったらちゃんと地べたに生えた。で、要するにそのことだけで実物になったり模型になったりするということがえらく恐怖で、ちょっとしたことで付いたり離れたりする本質を僕の建物は持っているということに、もう初期に気づいたのね。

本城直季氏がどのように撮影→現像してるのかは知らないので、あくまでここではゴリモンさんの「もどき」話に限定するが、彼は「箱庭梅田」写真を Photoshop で「コントランストを強めにして上でピンボケ加工する」ようにして作られている。その際の加工技術は「箱庭」の持っているリアリティに近づくべく費やされている。しかしながら考えるまでもなく、その「箱庭」のリアリティとは「箱庭」自体が現実の世界のリアリティを得ようとして得損ねた部分にこそ現れているのである。そしてその得損ねた部分を得るために必要とされる技術がコントラスト強めだったりピンボケだったり、、そして『ザ・藤森照信』の大半の写真がそんな感じで模型の複写なのだか、現物の複写なのだかよくわからないのである。

しかし、おそらく藤森氏はこの刷り上がった『ザ・藤森照信』を手にしてもその実物だか模型だかわからない建築写真に「ものすごい恐怖」を感じることはないだろうという気はする。それは本城直季氏の写真の質の問題とは無関係に、それが写真であること、そして藤森氏が建築家であることに起因すると見るのは純朴すぎるだろうか?

ゴリモンさんには是非この冊子を手にする前に、高過庵箱庭にも挑戦してもらいたい♪

【写真】『ザ・藤森照信』表紙をスキャンしたものの部分掲載(撮影:本城直季氏)
【追記】後でググってみたところ、本城氏の写真は「大判カメラを用い、アオリによって擬似的に浅い被写界深度を表現することによって、実際の風景をまるでミニチュアの接写であるかのように見せる手法が特徴的」(by はてな)とのことで、Photoshop 加工を積極的に取り入れた写真ではないようだ。「Tokyo Source: 012 本城直季(写真家)」で彼のプロフィールと自作品についてのインタビューが掲載されている。

by m-louis : 2006.08.18 16:40
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2006年08月19日 09:00
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これぞ、免震構造?

by ちはる : 2006.08.19 07:59

知り合いの構造家とも話題になっとるのですが、まともに確認申請を出したら通らないんですよね。コレ。「柱が日本農林規格を満たしている材料であると言えないから」ということみたいです。この建物、確認申請の必要な面積に達していないので、とりあえずの問題はないわけですが、、、、。
阪神淡路大震災の経験から言うと、倒壊した建物は多かったけど、地震で倒れた立木というのを見たことも聞いたこともありません。そういう意味ではこの超免震構造といえなくもないですね。

by あさみ編集長 : 2006.08.19 10:12

藤森照信×本城直季のコラボレーションにはビックリです!(というかこちらが勝手にそれぞれマイブーム状態なだけなんだけど^^)

高過庵箱庭はとりあえず挑戦してみます。
でもちょっと難しいかもしれません。ある程度“俯瞰したアングル”じゃないと箱庭写真には見えないので^^

by ゴリモン : 2006.08.19 10:17

かわいいですね〜。写真、めっちゃミニチュアなおうちに見えます。シルバニアファミリーのおうちみたい、と思いました。(女の子の遊び道具ですよね〜^^;わからんないかしら?)

この建物「茶室」だそうですが、とりあえずのぼりたい!そして中でお茶を飲みたいです(笑)。

by のりみ : 2006.08.19 22:16

>ちはるさん+あさみ編集長さん
実は藤森さん、エントリーで引用してる対談の中で、ご自身が構造と平面に興味がないということも告白されてます。で、何に一番関心があるかというとそれは仕上げで、それを「人」を引き合いに出して言われてる。要するに人って骨なんかよりも顔色や肌の調子の方が気になるじゃない?みたいな感じで(笑)

で、「高過庵」ですが、私はコレ、免震建築というよりも感震建築といった方がいいんじゃないかと思ってます。岡崎氏もそれが3本ではなく、わざわざ2本で立ってることを人間の二足歩行に喩えて指摘されていて、つまり「2本足で立つというのは、人間の意志の勝利!」であると。実際「高過庵」はそうしたリスクを感じるための機械と言ってもいいような気さえします。それとその二本足の木ですが、NHK-ETV特集「スロー建築のススメ 〜藤森照信流 家の作り方〜」で、最初からそこに立っている木の上に建てたのではなく、一応、木を立てるための基礎(穴)を作って、そこに差し込んでコンクリートで固めてたので、決して天然木の立木を利用したものではないようです。

>ゴリモンさん
いや〜、私もゴリモンさんの諏訪に行かれたタイミングと本の出版されたタイミングの絶妙ぶりにはビックリしました。そしてそのコラボのタイミングも(笑)

高過庵箱庭、一般人にはローアングルしか撮れませんので、確かに難しいかも?とは思ってました。本城直季氏の写真でもローアングル高過庵あるんですが、このエントリー冒頭でアップしてる写真ほどの模型感は感じられません。

>のりみさん
シルバニアファミリーで話通じますよ。
まあ、藤森さんがシルバニアファミリーと聞かされたら、それはそれで新たな「恐怖」を感じそうでもありますが(汗)

by m-louis : 2006.08.19 22:55

ひょっとして清春芸術村の「茶室 徹」の方は一般の人間でも中に入れるのかな??? だとしたら行ってみたい♪

by ゴリモン : 2006.08.19 23:01

http://www.flickr.com/photos/gorimon/219567031/
高過庵箱庭なのですが‥‥うーん^^;

by ゴリモン : 2006.08.20 11:30

ゴリモンさんのところでコメント有り難とうございました。
いつも敬服しながら拝見しています。
父は、戦後の猛烈なインフレに耐え切れず?大阪で(ゴリモン氏宅とはチャリンコで至近距離)莫大小製造業(つまりメリヤス屋)を再開しましたので、私も小6の時に戻ってきました。農場は徐徐に縮小、殆んど原野に戻り現在に至るまで別荘として大勢の(父の)孫たちまでが夏休みなどを過ごしてきました。
前置きが長くなりましたが、実は私が大学入学当時兄二人も大学生で家計も大変だったのですが、綿下着用素材を染めた安物の「野暮ったい紺色水着」の両サイドに2本または3本の白いラインを入れたデザインの学童用水泳パンツが爆発的に売れ、数年で日本から「ねこふん」を駆逐してしまったのは我が家の製品でした。
兄弟のうち4人位はその海パンのお陰で大学に行けました。一度洗うと伸びてしまうような代物ですが、まだadidasも無かったと思いますので意匠登録しておけば良かったかも知れません。
夏休みの帰省の車窓からなん箇所か水遊びの子供たちが見られましたが、その頃劇的に「黒猫」が我が家の(多分)白いライン入り海パンに変わっていてびっくりしました。
そういえば、住居も高過ぎず低過ぎず、6本の重量鉄骨で地上1m程浮かせたALCのブロック2つを渡り廊下で繋いだような妙な家に永年住んでいるので、庭を少し俯瞰する感じの部屋でないと妙に落ち着きません。
どうも長々と失礼しました。

by e_fan : 2006.08.20 12:11

すみません、adidasは1920年からでしたね、日本上陸は分かりませんが。
ちなみに、「パーマ」という商標登録を女性和服用下着で戦前取得していたので、アーノルド・パーマーブームのとき、東レと帝人の二社から使用権を買いにきて多分我々の学費か食費になったと思います。
その女性用下着の店頭用ポスターは上下金具付き上質紙でデザインはアメリカン超モダン、ミッキーマウスがメジャーをもって下着美人と・・・ために戦時色濃厚で多分使用禁止になったらしく、家に大量の在庫があり裏を画材にしていました。

by e_fan : 2006.08.20 13:21

>ゴリモンさん
高過庵箱庭写真作成、ご苦労様です!
模型っぽさ、しっかり出てるんじゃないでしょうか?
『ザ・藤森照信』には出てなかったアングルなので、雑誌の中にこの写真を織り交ぜてしまいたいくらいですね(笑) しかし、本城直季氏が Photoshop 加工ではなく、アオリ写真による撮影技術にこだわって作品制作してたことを知ると、余計に「リアリズム」ってのは最早どうでもアリだなという気がしてしまいました(汗)
「茶室 徹」は確かに清春芸術村のサイトのその他の施設で紹介されてるようですね。
入館料(900円)払えば、入れるのかな〜???
http://www.galerie-yoshii.com/

>e_fanさん
「敬服」だなんて、こちらこそ大変恐縮です。
それとゴリモンさんのブログで事情も知らずに「野暮ったい紺色水着」と表現してしまってこれまた大変失礼しました(笑) いや、でも、私はその「野暮ったい紺色水着」にしっかりお世話になってた世代です。というか、最近のガキ共はトランクスタイプのパンツを履いてますが、中学生まではあの「紺色水着」を履かせるべきだろうと考えてる(ある意味嫉妬か?)中途半端オヤジ世代(1970年生まれ)でもあります。

いや〜、しかし、e_fanさんのお話、面白いですね〜。
高度経済成長期に開発された商品って、大量生産ゆえの批判も浴びやすいものですが、大体のものがある種の懐かしさというか、気恥ずかしさとは裏腹に愛着を伴います。それって今の例えばトランクス水着なんかじゃ、絶対感じられないものだと思うんですよね。そういう意味では自分はまだギリギリ幸せな時代に生きられたのかも知れないという風にも思います。ちなみに70年生まれは adidasもあった世代なんですけどね(汗)

庭を俯瞰する家の話や「ミッキーマウスがメジャーをもって下着美人と・・・」店頭用ポスターの話も大変興味深く、e_fanさんのブログ早速リンクさせていただきました。

by m-louis : 2006.08.20 23:04

わたしも雑誌、立読み、横目で眺めなどしてますが、まだ買ってないんです。ところで、ミニチュア、これって写真家の方のことも書いてありましたけど、このソフトで加工してるのかと思いました。
http://recedinghairline.co.uk/tutorials/fakemodel/

だいぶ前になりますが、サンフランシスコの街とかをミニに加工している友だちの写真を見てソフト紹介されていたので、これも
それを使ったのかなぁと…。

清春は蜂の巣型のアトリエが大好きですが、再度、茶室を見にいく予定にしています。

by mitsubako : 2006.08.21 14:09

『ザ・藤森照信』今朝amazonより到着しました。美人の奥様が神戸出身、近所に住む家内の従妹と高校が同窓(少し後輩かな?)なのも余計に親しみが湧きます。同僚がセキスイハイムM1を建てた世代なのも懐かしいです。
Link有難うございます・・・が自分のメモ代わりと甥(姉の子など)や倅向けアルバムみたいなものなのでお恥ずかしい次第です。
実は「紺色水着」のことはm-louisさんのコメントを見るまで全く忘れていましたし、「鳥屋(とや)」のこともゴリモン氏のBlogを見て思い出しました。

by e_fan : 2006.08.21 17:14

>mitsubakoさん
『ザ・藤森照信』、ふつうにはちょっと立ち読み価格ですよね。
私の場合、国内の建築家特集で2500円出せる建築家は藤森さんしかいません(汗)
ちなみに写真の本城直季氏ですが、どうもソフト加工ではないようですよ。
清春は次の墓参り機会に検討してみようかな〜、、まあ、あまり何かのついでに墓参りするというのはよくないと聞くので、墓参りのついでに清春って感じですが(笑)

>e_fanさん
奥さんの写真ってこれまで縄文住居のでしか見たことがなかったので、私も思わず見入ってしまいました。出身地や出身校で繋がりがあると途端に身近に感じられるようになりますよね。私の場合、祖母の生まれが茅野ですので、その点でも藤森さんはどこか身内に居そうな感覚を前から持ってました。藤森姓の親類も多いですし。。
M1 の話は彼の他の書籍でも書かれてます。これも高度経済成長+大量生産時代の産物ですよね。ある意味突き詰められて作られてるだけに、最近の建築家住宅などよりも考えさせられる点が多かったりするような気がします。

by m-louis : 2006.08.21 22:11

「藤森姓の親類も多いですし。。」
オリエンタルラジオの藤森慎吾(「アッちゃんカックイイ」という眼鏡君)が諏訪市出身だそうです。ひょっとしてm-louisさんの親戚だったりして^^

by ゴリモン : 2006.08.22 01:59

>ゴリモンさん
そういえばオリラジの片方、藤森君でしたね。
親戚かどうかは叔父叔母に聞いてみないとわからんですが(ちなみに藤森照信氏は近いところでの親戚ではない)、しかし、照信氏にせよ、慎吾君にせよ、諏訪出身の人だと言われたら、非常に頷ける顔してます。どこか共通項があるんですよね。
ま、火事騒ぎ起こした「くまぇり」の顔はあんまりらしくないんですが(^^;)

by m-louis : 2006.08.22 18:55

11月26日放映のNHK「トップランナー」に写真家の本城直季さんが出演されていました。たぶん本放送をご覧になっていないと思うので、再放送情報書いておきますね。

http://www.nhk.or.jp/tr/

2006年11月30日(木)深夜 (12月1日金)

翌日午前1:10〜翌日午前1:55(45分)

NHK総合テレビ

http://cgi4.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=200&date=2006-11-30&ch=21&eid=54859

本城ワールドのメイキングが見られてとてもおもしろかったです。シノゴという旧式のカメラを使用されていて、赤いマントをかぶって撮影されていました。現在の写真スタイルを確立するために1年くらい試行錯誤を繰り返したそうです。

『ザ・藤森照信』も最後にちらっとだけ映っていました。

by のりみ : 2006.11.26 22:31

>のりみさん
このブログ、URL記載件数が2件以上だとコメント公開保留の設定になってるようで、留守中の対応が遅くなり、スミマセン。
本城直季さんの情報ありがとうございます。
同じく留守中にTBのあった「ちはろぐ」のエントリーによれば、「本城直季」風ミニチュア写真作成ソフトなるものもすでに開発されてるようですね。
http://blog-tech.rikunabi-next.yahoo.co.jp/blog/hirabayashi/148

今のところ、Windows版しかないようなので、試してはいませんが。。

by m-louis : 2006.11.28 12:39









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