2006年04月20日 (木)

耐震強度偽装問題への提言3

このエントリーでは当初、前エントリーの終わりの方で予告していた「より実践的なレベルで免震建築の話をどう耐震強度偽装問題に切り込ませたらよいかについて」書くつもりでいた。しかし、理屈っぽい話ばかりずっと続くと疲れるので、このエントリーはちょっと軽い話題(事例を中心に紹介して)をして閑話休題ということにしたい。

まずこれまで解決案として打ち出してきた免震建築であるが、実際にそれが取り入れられている有名建築を3つほど挙げてみることにする。ちなみにこの3つの建築が免震建築であることを知ったのは、丸激のトークでと多田英之氏の著作によってである。

その一つ目はライブドア事件のせいで最近めっきり評判の悪くなった六本木ヒルズ。噂によると Yahoo! も「ヒルズ族」というマイナスイメージを嫌ってテナントから離れるとかいう話を聞いたこともある。個人的には差したる興味もないので、あそこが廃墟になろうとどうなろうと知ったこっちゃないのだが(ってか、森ビルというくらいだから、この際、各階の窓を取っ払って床には土を盛って植樹して高層の森にしちゃってはどうだろうか?)、それはともかくあのビルは免震建築で出来ているらしい。六本木ヒルズのサイトに〈「六本木ヒルズ震災訓練」と「防災ボランティアフェア」〉というプレスリリースページがあって「ハード面の対策として、建物には最新の制振・免震構造を取り入れているため、大型の地震でも構造部材への損傷がほとんどなく建物機能、都市機能を維持します」と書かれているので、より厳密にいうと制震・免震の混構造ということになるようだが。。

続いて紹介するのはあまり建物としてのイメージ自体が流通しているものではないが、誰でもその存在があることだけは知っている首相官邸。それも2002年に竣工した新官邸ばかりか、その完成と共に曳家(ひきや)工事を始めた旧官邸もまた免震化されたのである。こうした古い建物を免震化することを「免震レトロフィット」というらしいのだが、それについてはもう一つ紹介予定の免震建築で触れるつもりである。
それとどうもこの首相官邸は多田氏が免震の研究を積んで来られた福岡大学が関係しているようなので、定年退職されたとはいえ、多田氏も一枚噛んでいるに違いない。
しかし、小泉首相に限って言えば、彼は他人と同等に自分の命もそんなに惜しんでない人に見えるので(そこが並の政治家とはちょっと違う)、地震で自分だけ救われたいなんて決して思ってなさそうにも見えるのだが(汗)

OSAKA CENT. PUBLIC HALL

そして「免震レトロフィット」として3つ目に紹介するのが、「中之島公会堂」の名で知られる大阪市中央公会堂である。この建物の建て替え計画は安藤忠雄氏が内部空間に卵型のホールを挿入するというぶっ飛んだ案を出して注目され、当時は東京で学生だった私はワケもわからずスゲーとか思ってその建物の存在だけは知っていた。しかし、それがその後どうなったか知らぬまま、私自身が大阪に住み始め、気づけば日常の中で中之島公会堂をふつうに公会堂として利用するようになっていた。それが実は多田氏の尽力により免震化という形で建て替えられたことを、恥ずかしくも彼の著作によって知ったのである。それは少しばかり大人になった今の私からすれば最適解だったのではないか?と思う。そして若気の至りで卵に魅了された時期を経ていただけに、余計にこの話は興味深く読むことができたようにも思う。そして、さらなる因縁話を打ち明けるならば、この中之島公会堂の免震レトロフィット設計を担当したのは日建設計(後日、TKYMさんのコメントにより日建設計の設計ではなく、坂倉、平田、青山などの設計共同企業体による設計であることが判明)であり、多田氏は日建設計の出身なのである。日建設計と言ったらば、そう、旧阪急梅田駅コンコースの建て替え工事で設計を担当するのが日建設計なのだ。まあ、このあたりの話はまた改めて機会を作って、今回の耐震強度偽装問題としてではなく、阪急コンコースの話として取り上げられればと思っている。

以上、3つの免震建築の建物を紹介したが、要はここで伝えておきたかったのは、上層社会においては地震対策には免震化というのが完全に主流の手法になって来ているということだ。それも免震が魅力的なのは「免震レトロフィット」で示し得ているように既存の耐震建築(それも近代建築まで)を免震化することが可能だということだ。

そしてこの「耐震強度偽装問題への提言」シリーズのエントリーで目的としているのが現在の上層社会・上層階級にしか存在してないかのように見える免震建築を中産階級ないし一般市民にまで引きづり下ろせ!ということなのだ。それは多田氏の著作を読む限り、ある部分の堰を崩してしまえば簡単に実現できるように思える話なのに、それが一部の既得権益層によって知られないように囲い込まれている。あるいは「免震建築は高くつく」という幻想によって端からの常識として諦めさせられてしまっている。

しかし、今も何とかマスコミの注目を寄せ続けている耐震強度偽装事件がそれを切り崩す恰好の手段となるように私には思えてならない。そのために必要な条件を次か次の次のエントリーで考えていきたいと思う。「次の次の」としたのは、この閑話でもう一つ書き残しているところがあるからである。

【写真上】
 2004.03.07 15:05 上棟式の翌日、妻&ウスケスケと東京観光での六本木ヒルズ。
 建物自体に魅力を感じてないので、1枚も建物単体の写真を撮ってない(`Θ´)
 クリックすると建物内部の写真(2004.03.07 17:30)。
【写真下】
 2005.08.26 14:26 中之島公会堂の南側面天井部。
 クリックすると北東側からの中之島公会堂夜景(2005.12.16 20:13)

by m-louis : 2006.04.20 23:50
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2006年05月01日 05:06
耐震強度偽装問題への提言
excerpt: 耐震強度偽装問題を解決するための具体策として、被害マンション全戸免震化の再考を提言する。その根拠は本件の免震化を厳しいとする専門家の声にこそ、建築業界の歪...
weblog: 谷中M類栖
comment

大阪市中央公会堂の設計は、日建設計ではありません。設計は、坂倉、平田、青山などの設計共同企業体です。

by TKYM : 2006.05.22 11:22

>TKYMさん
ご指摘ありがとうございます。早速訂正させていただきました。
ところでTKYMさんってひょっとしてF大学のTKYMさんでしょうか?
と思って、ブログを見に行きましたら、エントリーで取り上げて下さいましたようで、、非常にびっくりしました。ありがとうございます!!

by m-louis : 2006.05.22 11:58









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