2006年04月18日 (火)

耐震強度偽装問題への提言2

現状の耐震偽装マンションの構造を免震化するという手法はコストが掛かり過ぎて話にならないと私の見たワイドショーではパネル説明されていた(※1)。ところが「耐震強度偽装問題への提言1」で取り上げた多田英之氏のトークや著作ではまったくそれとは逆のことが言われている。つまりは「免震建築は耐震建築に比べてコストが安くなる」というわけだが、私にはそのどちらが正しいのかを判断することはできない。ただ、多田氏の著作を読み進めると実際どちらの言ってることも正しく捉えられそうな視点が存在することは想像でき、その両義性をこのエントリーでは繙いてみようと思うが、それを始める前にまずは前エントリーで予告してあった耐震建築と免震建築の置かれている立場の違いについて軽く触れておきたい。

耐震建築と免震建築の違いはその字義からもおおよそのところは推測可能だと思うが、前出の多田英之氏が代表を務める日本免震研究センターのサイトにその違いをわかりやすく見せたかわいい GIF アニメがあるので、それをまずは縮小転載させていただくこととする(尚、日本免震研究センターにはいずれリンクや画像転載の件で連絡取らせていただくつもりではいるが、それはもう少し議論の見えたところまでこのシリーズを続けてからにしたいと思っているので、先に見つけられたとしたらご勘弁である)

RSL免震システム: 1. 耐震・制振、免震構造について
耐震建築免震建築

詳しくはこの図の記されたページをご覧いただくのが手っ取り早いが、その原理的な違いは耐震が「地震に耐える構造を考える」であるのに対し、免震が「空間そのものを地震から守る」ということにある。その結果として、耐震はどんなに頑丈に作って倒壊を免れたとしても激しい地震であれば家具が倒れたりということがあるのに対し、免震は揺れ自体がゆっくりなので家具損傷のおそれはほとんどない。

こうした説明を読むと私を含む多くの一般市民は免震建築の方がいいじゃん!って思うのではないだろうか? もちろんこの説明は免震建築を奨励するサイトのものなので、免震建築のメリットが引き立つようになってはいるのだろう。だが、そうした事情を差し引いたとしても、その原理から考えて免震建築に分があるように見えてしまうのは、そう外れた読み取り方ではないはずだ(一般的に考えれば考えるほど)。ところが現実的に国内の大半の建築物は耐震構造で作られているのである。

多田氏の著書『建築の設計と責任』によれば「免震という概念自体は古くからあった」が、戦前は「解析技術が十分でない」ことから実際の建物への適用ができなかったと記されている。昭和初期には「柔剛論争」なる建築界を二分する大論争も起きていたらしい。そこで技術解決で先んじたことにより勝者となった「剛」たるところの耐震建築が建築業界の主流となり、「柔」たるところの免震建築は敗北するばかりかタブー扱いとなってしまう。そしてそれを決定的なものとしたのが、建築基準法だったという。

勘の良い人であれば、ここまでの話でそこから先、何が起きたかは想像できるだろう。
免震建築はその後「解析技術が十分」な時代となっても、そう簡単にそれを実現することができなかった。耐震建築が既に一つの「体制」として一人歩きし、産官学が民を顧みずに既得権益に預かろうとする図式(歴史)が成立してしまったのだ。こういった話はもうどの分野からも聞こえてくる社会の膿のような話だが、それが建築業界の場合、よく話題になる談合問題以外でも、免震建築から耐震建築を見つめ直すことによって焙り出し可能なのである。

以上、話は長くなったが、免震建築と耐震建築が単純に並列の選択肢として置かれているわけではないことはご理解いただけたのではないかと思う。さて、そこで冒頭のコストの両義性に話は戻るのだが、免震建築が高くつくというワイドショーコメントがなぜに生まれるかといえば、それはまさにこの免震建築の置かれた立場の弱さによるものではないのだろうか? というのも、先ほど耐震建築の既得権と書いたが、良くも悪くも耐震建築は既存の工法となっているため、生産ラインも安定していて、大量受発注が敏速に行える体制だけは整っている。それに対して免震建築は多田氏によればニセモノ免震も出回っているようで、思わぬところでのコスト増大ということも計算に入れておかなければならない。

何だかこうしたことを書いていると耐震建築が自民党で免震建築が民主党であるような気分になってくるのだが、まあ、しかし、上記でリンクを張った日本免震研究センターのページに書かれた「免震建築は耐震建築に比べてコストが安くなる」というのは原理的に考えれば素人でも理解可能な話なのである。要はそこからそのための信用できる体制が作れているかの問題なのだ。

そこで次のエントリー(間に別テーマのエントリーが入ってくるかもしれないが)ではより実践的なレベルで免震建築の話をどう耐震強度偽装問題に切り込ませたらよいかについて考えてみたい。ただ、ここ数日、耐震強度偽装事件の主役級が一斉に事情聴取、立件という運びとなっており、みんな逮捕ということになってしまうと個人的にはこの人たちにも一役買って欲しいと思っていたので(この業界での信用ゼロ状態になってしまったからこそ怖いモノなしで出来ることもあると思うのだ)、ちょっと自分の提言しようとしていたアイデアも変更を余儀なくされそうである。

本当は彼らもただ刑事&賠償責任を負わされるだけでなく、一緒に解決すべき問題だと思うんだけどなぁ(それこそが本当の「責任」というべきものである)。住民は彼らの顔も見たくないんだろうけど、現実的に彼らほどメディアを動かせる顔を持ったキャラも他にはいないわけで、その利用価値を失うのは今後の大きな損失である。

□◇
※1)後日、検索チェック中に彼の問題人物と目されながらもうまく逃げおおせた感のある伊藤公介元国土庁長官が、実は小嶋社長から相談受けていたことというのが『免震技術のある大成建設を紹介してほしい』ということで、また伊藤氏も「自分も免震技術について勉強したいと思ったので出向いた」と話していたということを遅ればせながら知った。
これが事実だとすれば、仮に彼らが逃げの一手でこの話をしていたとしても、私は彼らにある一定の評価は与えたいと思う。というか、彼らに無理だと諭した技術者の根拠を再度問い直してみる必要があるのではないだろうか?(もちろんそれが「かなり難しい」と言われる業界の通念自体を見直す形で、かつ多田氏を交えた複数の専門家を招く形においてである)

読売新聞: 伊藤元国土庁長官、ヒューザー社長とゼネコンへ(2005.12.22)
読売新聞:「小嶋社長に同行も、国交省に紹介せず」伊藤元長官(2006.01.19)

by m-louis : 2006.04.18 23:30
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2006年05月01日 05:04
耐震強度偽装問題への提言
excerpt: 耐震強度偽装問題を解決するための具体策として、被害マンション全戸免震化の再考を提言する。その根拠は本件の免震化を厳しいとする専門家の声にこそ、建築業界の歪...
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