まず私がここに来たのは2度目である。2000年にも妻・母・妹と墓参りついでで来ていて、ところがそのとき私はデジカメを持っていなかった。だから当時、母がコンパクトカメラで撮ったスナップ写真と今回自分で撮ったデジカメ画像を見較べているのだが、外壁に張られたサワラの割板の色にそう変化は感じられない。ところが『藤森照信野蛮ギャルド建築』(TOTO出版・¥1,800-)に掲載された1991年竣工時の写真と見較べると劇的に違う。経年変化がいつ頃はっきり現れるのかが気になるところだ(というのも、うちもいずれは軒下の杉板甲板が黒くなるって豊田さんに言われている)。
また、私は大阪から諏訪へはいつも高速バスを利用するのだが(往復1万円で列車利用と大した時間差はない)、今回車中では藤森照信著『タンポポの綿毛』(朝日新聞社 2000年4月発行 ¥1,680-)という本を読んできた。彼の「テルボ」と呼ばれていた子供時代の話がエッセイ風にまとめられた単行本である。
この本にはテルボが子供時代に遊んでいた集落の地図(藤森氏本人の手書きによる)が収録されていて「高過庵」の場所を探すのにも何か手掛かりになるのでは?と思っていたのである。しかし、諏訪に向かう車中でこの本を読んでいるとやはり読む現実感もまた一塩違ってくるものだ。場所の持つ磁力ってヤツだろうか。何度も爆笑を堪えながら読んでいたのだが、中でもとりわけバカ受けした「トンボ捕り」の話を一部引用しよう。
私はこの笑い話に藤森建築の主題の一つが隠されてるような気がしてならなかった。
いや、隠されてるなんてもんじゃなく、内容同様モロ出しされてるといった方がよいだろう。それはユリイカ2004年11月号で特集された『藤森照信──建築快楽主義』(青土社 ¥1,300-)で、赤瀬川原平氏が「てっぺん性」という言葉で表現してたり、また特集にあたって藤森氏ご本人が対談相手にリクエストされてたんじゃないかと思われる宗教人類学者の中沢新一氏に「天に発射するスタンディング・ストーンとリンガの問題」を問い掛けている。即ちそれらは河原に横たわった身体から上へ向かって立ち上がる(場合によっては発射される)勃起力そのものの話であるのは言わずもがなだろう。
だが、もう一つ忘れてならないのが「トンボ」である。といってもワケわからないだろうから少し説明すると、処女作「神長官守矢史料館」から始まる藤森氏の一連の建築物でてっぺんに向かってオッ起てられた柱や棒ってどれも「どうだ!オレのを見ろ!」っていうほどは堂々としてなくて、どっちかというと華奢で慎ましく立ってる感じはしないだろうか? で、たぶんコレを品位とかそういうレベルで捉えてちゃ駄目で、私にはどうしてもそれがトンボを捕まえたいからああいう木を選ばれてるような気がしてならないのである。堂々とし過ぎた木に決してトンボは止まりはしない。
もちろんここでの「トンボ」が昆虫のトンボだけを指してる訳ではないことは言うまでもなく、おそらく氏はどんなものが近づいて来ても「腰の脇からそっと手を動かして」「‥‥」しようとしてるに違いない。そんな藤森氏に私はピカソが1966年に残したエッチング・アクアチントを勝手に捧ぐ。
Pablo Picasso, Untitled, 15 November 1966 VI.
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・藤森研究室「神長官守矢史料館」: 外内観写真+図面+コメント+建築情報
・茅野市ホームページ「神長官守矢史料館」: 公共施設案内(休館日情報)
・建築リフル「001 神長官守矢史料館」: 写真集(藤塚光政/隈研吾 著)
・建築マップ「神長官守矢史料館」: 訪問レポート+詳細情報
・美的建築ワールド「茅野市神長官守矢史料館」: レポート+建築情報
・月間進路指導「あの人に聞きたい私の選んだ道, 2P, 3P」: 藤森照信に聞く
・Sputnik「yield」: 藤森照信へのインタビュー
・asahi.com - 信州館めぐり「名建築の中に諏訪大社の歴史」: 新聞掲載記事
・SEEDS ON WHITESNOW「ETV特集「スロー建築のススメ」 -守矢の里の不思議な建物たち-」: 地元出身者の番組レビュー(ブログ)
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