まずうちの場合、前任建築家のときも初音すまい研究所のときも設計料は工事費の何%という形での請求を受けた。このパターンは Off Space のエントリーを取り上げるまでもなく、建築業界の常識となっている形のようである。が、正直言うと私は本当はこれに「待った」を掛けたかった。もちろん私本人も Web の仕事をするときにギャラの話になると決まって困ることになるのだが、それは建築家もおそらく同じことで、つまりは妥当な見積もりを算出する目安が欲しい訳だ。これが工務店なら建材が幾らで人夫代が幾らでと算盤を弾きやすいが、設計料というのはそういう目に見える算出の材料を持たない。そこで工事費の何%という話が出て来るのだと思う。
だが、この目安というものが計画が進み、工務店に見積もり取る段階になるとじわじわと施主にボディブローのように効いてくる。というのも、大方の計画は工事費予算オーバーというケースの方が多いだろうから、何を削るかと四苦八苦する際にはどうしても設計費も頭を掠める存在となってくるわけだ。
ところがその段階において、実は施主ばかりか建築家の方も奇妙なディレンマに遭遇している。工事費が予算オーバーしたときに、ではもちろん何を削るかの最終決断をするのは施主だが、その工事費を抑えるための具体的算段を練ったり、各種工務店に値切りの直談判をするのは設計事務所の立派な一つの仕事(つまり、そうしたやり取りにおいても設計事務所の能力は問われている)。だが、この仕事に関してはその能力が優れれば優れるほど、自分たちのギャランティを下げる結果をもたらすという矛盾(工事費が下がるわけで)と結びついているのだ。
どうもこの仕組みは納得が行かない。うちの場合、というか、初音すまい研究所の対応に限定した話だが、まあ、豊田さんは相当に苦心工面してくださった。だから、うちもこうして工事を進めることが出来たのだが、それがなければ今頃もまだ路頭に彷徨っていたということだって大袈裟ではなくあり得たかもしれない。だから、正直言って感謝と共に済まない気持ちで一杯である。
だが、それとは反対のことだって考えられ得るのである。つまりはギャラを下げたくないから見積もり調整で努力してくれない建築家だっているはずである。この辺のところはドラマ「白い巨塔」ではないが、医者から「手術するしかないのです」と言われてしまったら手術せざるを得なくなるように「これ以上工事費を下げるのは無理です」と建築家に言われてしまっては施主はもはやどうにも立ち行かなくなってしまうのだ。これが計画始まって間もなくなら考え直すことも出来るだろうが、共に数ヶ月なり数年なり歩いて来た時点での通告となるともはや後戻りが効かない。何せ大抵の施主は一杯一杯の状態で計画に臨んでいるだろうからして、、そして、そのとき設計費の増減が頭を掠めるのもやむを得ない心理であり、それが原因で建築家との関係がまずくなるということも起こりやすいポイントだと思う。
例えばそうした問題の打開策としてテレビ朝日系列「建もの探訪」でお馴染みの渡辺篤史氏はその著作『渡辺篤史のこんな家に住みたい』において工事費に対する%提示ではなく、坪あたりいくらという計算はどうかという問いかけをしている。もちろん設備の入れ方、敷地の建築条件によって坪計算は工事費の「坪単価」計算同様、なかなか微妙な問題を孕んではいるが、見積もり算段の影響を受けないという意味ではまだマシな気がしなくもない(ただ、あまりに色々なケースバイケースとなりそうなところがやはり目安としては微妙なところであるが)。
ただ、本当いうと設計費はそうした影響云々の問題はもとより、漠然とした目安とか経費とかも抜きにして、努力への感謝の気持ちとして、そして技能に対する尊敬の気持ちとして、施主が思った額を払いたいものである。もちろんそれが現状社会経済では夢見物語に近いことはわかっているが、例えば柄谷行人氏が進めようとして頓挫した市民通貨「Q」の盲点を完全にカバーできるような経済システムの構築が可能となれば非現実的な話ではなくなってくる。
ともあれ、我が家のことに話を引き戻すと、Off Space の
住宅(工事費2100万)で設計監理料300万だとか。
確認申請等は別なので、申請手続きまで含めると15%になる計算です。
事務所協会が想定する業務を行って場合の算定金額である。
それならば、
それ以上の仕事しているのに設計料10%の設計事務所は安い!と、住宅建築の施主の方々には思って欲しいのですが。。。。
を読むと10%をどんどん高いものに感じて行ってしまった(特に初期計画時に)我々も少し勉強と理解が足りないという感じではあるが、我々の1回目の挫折のことなども踏まえて設計費としては出血大々サービスの%提示をしてくださった豊田さんには本当に頭が下がる思いである。というか、下がるばかりではいられず、最後の分の設計費を支払う前に家族とそのことについてもう一度考え直す機会を作りたかったのだが、引越後から私と実家との関係がいまいち芳しくなくて、そうした相談をするような状態を作れぬまま(一度持ち掛けてはいたのだが)、最後の支払いを終えたという報告だけ受けてしまった。
だが、私個人としては気分的には全く以て感謝の消化不良で、とはいえ、個人的にポケットマネーを出せるほど裕福でもなく(何せ今年の私の収入は妻のパート代より少ない、たぶん)、いろいろ考えたのだが、やはり私のお返しできるものといったら一つしかないので、それについては豊田さんに少し相談を持ち掛けてみたいと思う。話が進んだならば、いずれこの場でも結果報告できるかもしれない。私なりの「Q」のやり方である。Q〜♪
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