April 05, 2005

黴(かび) の責任

040718_understrage.jpgもう数週間くらい前になるだろうか。母から1F縁台通路下の収納に入れておいたヴァイオリンケースに厚さ数ミリの黴が生えていたという電話があった。私はその状況を見てないので何とも言い難いところだが、黴を見つけた母はやや一大事といった口ぶりで、ただ、すぐに工務店や設計事務所に苦情連絡するようなことはしてなかったので、ひとまずほっとした。

この問題、一概に設計・施工側に責任を求めるのは誤りである。というより、その責任の比重はどちらかといえば施主の方にあり、より厳密に見るならば諸々関係性の間において生じてしまったと見るのが正しいところだろう。

我が家の1Fが空調面において他の居住スペースとは異なるハイテク装置(エアカルテット)を導入していることについては去年7月の「設備点検&指導」のエントリーで書いた。この選択は祖父の日本画作品保存を第一に考えてのもので、室内はほぼ一定の湿度を維持し、常に浄化された空気が循環するシステムが採用されている。ただ、その仕組みは作品収蔵庫にまでは適用させていたが、さすがに縁台通路下の小収納までは非対応だったのである。

つまり1Fは空調万全だから心配無用という油断がつい我々の間で働いてしまったというわけだが、こうした問題は住人がふだんの生活でもう少し家の隅々まで気配せする習慣を身に付けていれば未然に防げたろうにとも思えてしまう(特にまだ住み始めて間もないわけだから)。だが、この件は毎度の家族への愚痴に繋がるのでこれ以上書くのはやめておく。それよりももう一点、こうした問題を誘発した遠因として考えられるところについてここでは触れておきたい。

040730_move.jpg引越作業時にヴァイオリンをその小収納にしまったのは他ならぬこの私なのである。結果的に仮住居から新居への引越では計3回も(※) 引越業者に来てもらうことになってしまったのだが、実家家族が仮住居の荷詰め作業で手一杯なため、私は主に谷中新居側の到着済み荷物の整備に当たることになった。整理でなく整備と書くのは、私が自分や祖父関係以外の荷物まで開封して整理収納してしまうと後々余計な混乱を招き兼ねないので、とにかく次の引越屋が新たな荷物を持ってきても邪魔とならないスペースを作りつつ、段ボール箱をワレモノや軽いモノ、日常すぐ使いそうなモノが上に積まれるよう、すなわち整備してたというわけである。

そんな中でヴァイオリンは当初から収納場所が決まっていたので、特に疑うこともなく想定された収納位置に放り込んでいた。ただ、当時の私は在京に期限がある以上(それでも1週間くらい延長したのだが)、自分や祖父関連のモノを整理するだけでもギリギリ一杯で、とてもじゃないがそれ以外のモノの状態にまで気を配っている余裕はなかった。だから言い訳するわけではないが、ヴァイオリンを収納する場所の除湿にまでは頭が回らなかったのである。しかし、もしここで母が最初からそれを自分で片付けていたなら、その時点で除湿のことをすぐに考えていたかもしれないとも思うのである。だが、母は母で当時はキッチン回りなどの整理でそれどころではなかっただろうし、とにかくそうしたドタバタの中でヴァイオリンの存在は1Fだけは大丈夫という油断とも相俟って置き忘れられたような状態になってしまったのである。

幸い、黴が生えたのはヴァイオリンケースだけで、中のヴァイオリン本体は無事だったというから安堵はしているが、ヴァイオリンケースが皮で出来ていることを考えれば、早めに除湿対策を取っておくべきだったことは言うまでもない。ただ、それに気づくべき立場が1Fだけは万全!という油断と、引越時のドタバタによって宙に浮き、曖昧なまま日が過ぎてしまったのである。

こうした問題の責任を問うのはなかなか難しい。というか、こういう事態に遭遇したとき、自らを顧みず何でもかんでもシックハウス呼ばわりで業者に責任を押しつけるのは大きな誤りだ。また反対に何でもかんでも責任を自ら背負い込んでそれで一件落着にしてしまう態度もそれはそれでどうかと思う。肝要なのは、そうしたトラブルがどういう経緯でどのような関係の中で生じたかを冷静に分析して把握することである(大方のトラブルは関係性の間=伝言ゲームの最中において起こりやすいものなのだから)。そういう意味で私はNHKの海老沢会長が全容解明してから辞任すると言っていたその姿勢に対してだけはある一定の評価を与えたい(もちろん腹のうちでは視聴者を誤魔化すためだけの延命策だったのかもしれないが、それはさておくとして)。


by m-louis : April 5, 2005 11:11 AM
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