December 18, 2004

設計料について

Off Space で「建築士事務所の役割と設計料」というエントリーがあったのに乗じて、少し「設計料」について書いておきたい(いや、前々から書かなくてはと思っていたことなのだ)。

まずうちの場合、前任建築家のときも初音すまい研究所のときも設計料は工事費の何%という形での請求を受けた。このパターンは Off Space のエントリーを取り上げるまでもなく、建築業界の常識となっている形のようである。が、正直言うと私は本当はこれに「待った」を掛けたかった。もちろん私本人も Web の仕事をするときにギャラの話になると決まって困ることになるのだが、それは建築家もおそらく同じことで、つまりは妥当な見積もりを算出する目安が欲しい訳だ。これが工務店なら建材が幾らで人夫代が幾らでと算盤を弾きやすいが、設計料というのはそういう目に見える算出の材料を持たない。そこで工事費の何%という話が出て来るのだと思う。

だが、この目安というものが計画が進み、工務店に見積もり取る段階になるとじわじわと施主にボディブローのように効いてくる。というのも、大方の計画は工事費予算オーバーというケースの方が多いだろうから、何を削るかと四苦八苦する際にはどうしても設計費も頭を掠める存在となってくるわけだ。

ところがその段階において、実は施主ばかりか建築家の方も奇妙なディレンマに遭遇している。工事費が予算オーバーしたときに、ではもちろん何を削るかの最終決断をするのは施主だが、その工事費を抑えるための具体的算段を練ったり、各種工務店に値切りの直談判をするのは設計事務所の立派な一つの仕事(つまり、そうしたやり取りにおいても設計事務所の能力は問われている)。だが、この仕事に関してはその能力が優れれば優れるほど、自分たちのギャランティを下げる結果をもたらすという矛盾(工事費が下がるわけで)と結びついているのだ。

どうもこの仕組みは納得が行かない。うちの場合、というか、初音すまい研究所の対応に限定した話だが、まあ、豊田さんは相当に苦心工面してくださった。だから、うちもこうして工事を進めることが出来たのだが、それがなければ今頃もまだ路頭に彷徨っていたということだって大袈裟ではなくあり得たかもしれない。だから、正直言って感謝と共に済まない気持ちで一杯である。
だが、それとは反対のことだって考えられ得るのである。つまりはギャラを下げたくないから見積もり調整で努力してくれない建築家だっているはずである。この辺のところはドラマ「白い巨塔」ではないが、医者から「手術するしかないのです」と言われてしまったら手術せざるを得なくなるように「これ以上工事費を下げるのは無理です」と建築家に言われてしまっては施主はもはやどうにも立ち行かなくなってしまうのだ。これが計画始まって間もなくなら考え直すことも出来るだろうが、共に数ヶ月なり数年なり歩いて来た時点での通告となるともはや後戻りが効かない。何せ大抵の施主は一杯一杯の状態で計画に臨んでいるだろうからして、、そして、そのとき設計費の増減が頭を掠めるのもやむを得ない心理であり、それが原因で建築家との関係がまずくなるということも起こりやすいポイントだと思う。

例えばそうした問題の打開策としてテレビ朝日系列「建もの探訪」でお馴染みの渡辺篤史氏はその著作『渡辺篤史のこんな家に住みたい』において工事費に対する%提示ではなく、坪あたりいくらという計算はどうかという問いかけをしている。もちろん設備の入れ方、敷地の建築条件によって坪計算は工事費の「坪単価」計算同様、なかなか微妙な問題を孕んではいるが、見積もり算段の影響を受けないという意味ではまだマシな気がしなくもない(ただ、あまりに色々なケースバイケースとなりそうなところがやはり目安としては微妙なところであるが)。

ただ、本当いうと設計費はそうした影響云々の問題はもとより、漠然とした目安とか経費とかも抜きにして、努力への感謝の気持ちとして、そして技能に対する尊敬の気持ちとして、施主が思った額を払いたいものである。もちろんそれが現状社会経済では夢見物語に近いことはわかっているが、例えば柄谷行人氏が進めようとして頓挫した市民通貨「」の盲点を完全にカバーできるような経済システムの構築が可能となれば非現実的な話ではなくなってくる。

ともあれ、我が家のことに話を引き戻すと、Off Space

住宅(工事費2100万)で設計監理料300万だとか。 確認申請等は別なので、申請手続きまで含めると15%になる計算です。

事務所協会が想定する業務を行って場合の算定金額である。
それならば、
それ以上の仕事しているのに設計料10%の設計事務所は安い!と、住宅建築の施主の方々には思って欲しいのですが。。。。

を読むと10%をどんどん高いものに感じて行ってしまった(特に初期計画時に)我々も少し勉強と理解が足りないという感じではあるが、我々の1回目の挫折のことなども踏まえて設計費としては出血大々サービスの%提示をしてくださった豊田さんには本当に頭が下がる思いである。というか、下がるばかりではいられず、最後の分の設計費を支払う前に家族とそのことについてもう一度考え直す機会を作りたかったのだが、引越後から私と実家との関係がいまいち芳しくなくて、そうした相談をするような状態を作れぬまま(一度持ち掛けてはいたのだが)、最後の支払いを終えたという報告だけ受けてしまった。

だが、私個人としては気分的には全く以て感謝の消化不良で、とはいえ、個人的にポケットマネーを出せるほど裕福でもなく(何せ今年の私の収入は妻のパート代より少ない、たぶん)、いろいろ考えたのだが、やはり私のお返しできるものといったら一つしかないので、それについては豊田さんに少し相談を持ち掛けてみたいと思う。話が進んだならば、いずれこの場でも結果報告できるかもしれない。私なりの「Q」のやり方である。Q〜♪


by m-louis : December 18, 2004 05:26 AM
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January 20, 2005 06:15 PM
設計料について
excerpt: どうも!朝妻です。 また、またこちらでの投稿をサボっていました。 asazuma...
weblog: teamhappy コラム
comments

ひさしぶりに拝見し、これは重要なエントリーが.... と思いました。

M類栖 さんのこのブログが、施主としてのお立場から、設計者と共通の認識に立とうとしている限り、この問題、設計料というお金の問題を避けて通るわけにはいかないと思っております。改めて、一設計者としてコメントさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

まずは。

by: 秋山東一 : December 27, 2004 11:53 AM

秋山さん、『ブログの力』以来、ご無沙汰しております。
「長岡の小屋」にコメント入れようかと思ってたのですが、ちょっとよい言葉が見当たらずそのままにしておりました。

設計料については「設計者として 会社の代表として 1人の中年男として」答えを出すことの難しさの書かれたメールが建築家から返ってきました。ただ、この問題は「設計者」だけの問題ではないですからね。私がこのブログで「住宅建築と施主」と副題を付けた時点(まだそれに対する解題は始まってすらいませんが)で、一つの主テーマ(というか、全てのテーマがこの問題と結びつく)になるだろうとも考えてました。さらに今後のエントリーでも他の話からこの問題に至ることは出てくると思います。

秋山さんの「一設計者としてコメント」、是非とも聞いてみたいところです。

by: m-louis : December 27, 2004 10:28 PM

どうも!朝妻です。

http://www.teamhappy.jp
でTBさせて頂きました。

せっかくですので、設計料について一言だけ。

工事費:2,000万円とすると、設計監理報酬は、現状では多くの設計事務所がその10%の200万円ということになります。
私が一緒に家づくりをする場合はこの金額は固定で、図面が出来て、見積を取って、工事費が確定した時点で、たとえ、工事が当初の予算2,000万円を超えてとしても設計料については増減なしにしております。
おそらくがほとんどの事務所も同様だと思います。

それにしてもこの10%が高いのか?安いのか?

200万円あれば・・・と考えるといろんなことが出来ます。
あれも買える、これも買える、・・・。
そうです。払うほうかしてみるとやっぱりこれは高いと思うことも多いでしょう。

しかし、設計者から見ると、住宅を1軒つくる場合は、通常、約1年かかります。(私の最短記録は6ヶ月、最長記録は3年)
200÷12=166,666 
1ヶ月で約17万円!
「そんなこといっても、その1軒だけやってるわけじゃなく他に同時進行してるでしょ?」
ところがなかなかそれができるほど営業もしないし、機用でもない人がまー、多いこと、多いこと。
で、つまりはこれでは儲からない。だから安いと思う。

おそらくこのギャップは私たちが死ぬまでには
到底埋まるものではないのでしょうネ。

えっ?私はどう思うかですか?

「やり方、考え方次第だと思います!」

ぜーんぜん、答えになってないって!! 

by: asazuma : January 20, 2005 06:49 PM

>おそらくこのギャップは私たちが死ぬまでには到底埋まるものではないのでしょうネ。

やっぱりそれじゃーマズいですよ、朝妻さん!(笑)
と言いますか、家作りが一段落付いたあとの施主たちがこうしてブログ等で懲りもせず家作りについてアレコレ言ってるような時代が来ているのですから、そうしたネットワークをそれこそ建築プロデューサーといった方たちがうまいこと利用して新しい仕組みを模索して行かれるべきだと思います。

少なくともこれまでのパーセント思考は「業界のことを何も分からぬ施主」を前提にわかりやすく提示するためのものとして慣例化してきたわけですよね。もちろん他にも様々な理由はあるのでしょうけど。でも、これだけ施主が検索一つである程度は業界のことも垣間見れる世界になってきているのですから、「施主」という存在をカッコに入れず、設計料の目安や算段方法そのものを再検討していい時期に来ていると思います。それに施主も家を作ろうというのだから、ただ、お客さん顔してるのではなく、そのくらいの理解や勉強はしていかないといけませんよね。それがイヤなら何も建築家と共に家を建てる必要などないわけでして。。

死ぬまでこのままでは絶対よくないと思っています。

by: m-louis : January 21, 2005 03:17 PM

m-louisさんへ

どうも!朝妻です。

>死ぬまでこのままではよくない

ですよね!そうですよくないのです。

>そうしたネットワークをそれこそ建築プロデューサーがうまく利用して新しい仕組みを模索していかれるべきだと思います。

ふむ、なるほど。
また新たに考えなくてはならないことが増えました。
実際、設計料が“図面代”だと考える人は以前よりは少なくはなっているようです。(でもいまだにそういう方もいらっしゃるようです)
私のこれまでのクライアントも最初はともかく、建築家のやっていることを目の当たりにすると「あれだけしか払わないのは申し訳ないなあー」とは言って頂けます。でも、“無い袖は振れない”のも事実。
ですから、ごく一部の方を除いてはやはり10%前後というのが現実的なところなのでしょう。しかし、あの安藤忠雄さんがBRUTUSで「約束建築」なる特集のときに『住宅の場合、設計監理量は工事費の10%ですから』ときっぱりと言ってしまっていたのを見たときは“怒髪・・・”って感じでした。
「なんで、あなたがそこで『僕の場合は100%ですけどね』くらいのことを言わないんだ!」っておもいました。

また、話が長くなってしまいました。すみません。

お言葉を噛みしめて、今後も努力いたします。

でも、このあとteamhappyでやろうとしていることは、おそらく自分で自分の首を絞めることになるのだろうと思っています。
そうです。私は建築家の味方ではないのでした。
あくまでも施主の味方なのです。
一人でも多くの方が、建築家との家づくりを成功できるために・・・
今日は真面目にくくります。

シャワッチュ!

by: asazuma : January 21, 2005 04:37 PM
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