July 16, 2004

建築写真撮影

豊田さんは以前「完成直後の真っ新なときよりも、人が住み始めて生活臭が漂い出してからの写真を撮りたい」と言われていたことがある。そうした姿勢というのは施主という立場にある者からすると大変喜ばしい話だと私は思うがどうだろうか? 「人が住む」ことが大前提の住宅建築ながら、建築雑誌の多くは完成直後の写真を扱うのが主だし、またそうした写真を残したがる建築家の中にはそれが自身のプレゼンの道具になるという意識の方を強く持ってる者も居ないわけではないだろう。その点で豊田さんの姿勢はアンチ建築雑誌、アンチプレゼン中毒、さらにはアンチ<近頃の極端すぎる抗菌・清潔>志向に繋がる小気味良いものがある。

ただ、とはいえ、さすがにそうした真っ新写真がまったく残ってないというのもこれまた施主としては寂しい話というのが偽らざるところ。ところが実質的問題として、建築写真ってのはその手の専門家に頼むとめっちゃ高く付くということが少し前から相談に乗ってもらっていた学生時代の友人フォトグラファーの話によって判明した。
具体的な数字を挙げると、もちろん内容やカメラマンによっても様々だが、4X5なら1カット¥15,000〜¥50,000くらいは掛かるというものらしい。となると家の写真の場合、数枚撮っておけばよいというものでもないし、相当の出血を覚悟して臨まなければならない。というわけで、我々はさっさとそれを諦めてしまったのだが、それは初音すまい研究所にとっても同様のようで、予算の都合上プロに頼むのは1回までと考えていたらしい。となれば必然的に豊田さんが希望する「人が住み始め」「特に応接室はピアノや屏風が入った」状態が初音が依頼するプロの撮影対象ということになるわけだ(もちろん初音すまい研究所独自に撮影するということは考えられているが)。

ところがそうした経緯を先の友人フォトグラファーの清さんに報告していたら、建築写真の専門ではないけど自分が撮りましょうか?と名乗り出てくれた。それも当初は35mmのカメラで三脚は使うもののスナップ的にと言われていたのが、最終的には西荻窪にある「レンタルカメラショップ」で¥4,700-/1日という定価23万もする広角ズームレンズ「Canon EF16-35mm F2.8L USM」を借りて撮影してくれることに。
清さん自身が「35mmのカメラでは、広い範囲がはいりきらない、画面の端の方がゆがむ、などの弊害がある」(※1) と事前に言われていたのだが、やはり実際に自分で撮るとなると必要に応じた道具が使いたくなるというのがプロ魂というものだろうか?(もちろん、そのとき限りしかない真っ新おうち写真を我々家族のために残しておこうという親切心も大いにあっただろうが)

ともあれ、そうした本人が撮る撮らない以前の段階で建築写真について色々メールでレクチャーもしてくれ、それは今後本格的な建築写真を残しておきたいと考えている建て主さんにも役立ちそうな話なので、以下に転載しておきたい。

建築雑誌等に掲載されている写真は、たいてい4X5という蛇腹のついた大きいカメラで撮影しています。
普通のカメラ(35mmとか)で建物を撮ると、パースがついて上の方が細くなっちゃったり、柱が斜めになっちゃったりしますが、4X5カメラはそれを修正して、まっすぐに撮影できるのです。
ここ(※「大判カメラ写真教室」)にわかりやすくのってます。
特に第3回「人間の目とアオリ」第6回「建物の撮影方法」をみるとよくわかります。
(中略)
雑誌に掲載されているクオリティの、いわゆるちゃんとした建築写真をお望みならば、専門に撮っているカメラマンにまかせたほうが、早いと思います。

で、当日はお披露目会のあと、工事も続行する中で15:00〜17:45くらいまで2F(書斎→和室→キッチン→ダイニング→階段)→3F(タラップ前→各洋室→ベランダ→脱衣浴室→廊下)→2F(建具ディテール→ダイニング→バルコニー→階段)→1F(応接室→工事風景→前室)→ファサードといった順で、36枚フィルム2本分撮影してもらった。2F和室の畳が敷けてない状態だったのが何とも悔やまれる。しかし私自身、何度もファインダを覗かせてもらったのだが、レンズの広角具合とアオリの補正具合(※2) はさすがは定価23万円の代物と言いたくなるものだった。私が後ろでデジカメで撮ってた写真とはその納まり具合も違えば写真全体のピントの合い方もまるで違う。

040716_kiyo.jpg

清真美撮影による谷中M類栖写真は後日改めてまとめて公開する予定です。


□◇
※1)35mmのカメラでは、広い範囲がはいりきらない、画面の端の方がゆがむ
エントリー前に清さんに内容確認したところ、この件に関して少し補足説明があったので、以下にその説明を転載しておく。

「広い範囲がはいりきらない」のは、私が広角レンズをもっていないためで、レンタルすることによってこれは解消できました。
「画面の端がゆがむ」のは、35mmカメラの性能上の問題でパースがついてしまうこと、これは4X5カメラを使うことによって解消できます。
もうひとつ、レンズの性能上の問題で、広角になればなるほど画面の周辺は球面上にゆがみます。(極端にいうと魚眼レンズのように)
これはフィルムサイズには関係なくて、35mmでも4X5でもゆがむレンズはゆがみます。
ちなみにご存知かとは思いますが、4X5のフィルムサイズは4インチX5インチ。ハガキサイズくらいあります。でかいです。


※2)広角ズームレンズの広角具合とアオリの補正具合
エントリー前に清さんに内容確認したところ、この件に関しての私の記述には誤りがあったようで、以下にその指摘を転載しておく。
正確にはアオリの補正はできてません。それは基本的には4X5カメラでしかできない技なのです・・。
ピントがクリアだったのは、被写界深度を深めにしたこともありますが、やはりレンズの描写力がよいのだと思います。


by m-louis : July 16, 2004 03:01 PM
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December 15, 2004 02:55 AM
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August 12, 2005 04:34 AM
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comments

rattleheadさんの「今日のスナップ写真不感症」はある種、建築家必見の施主エントリーと言えそうです。

by: m-louis : April 24, 2005 02:03 AM
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