2006年09月28日 (木)

兵庫県美のジャコメッティ展

開館以来、久々に安藤忠雄氏が設計した兵庫県立美術館に行った。
と建築系ブログのような書き出しだけど、見に行ったのは建物ではなくて、10月1日迄開催中の『アルベルト・ジャコメッティ展──矢内原伊作とともに』である。神奈川県立近代美術館での開催中に行けなかったので、兵庫県美でやることを知ったときには小躍りしたくなったものだが、そんな小躍りを遙かに上回る満足の得られた展示だった。
谷中M類栖/1f という名前」のエントリーで私は「告知も半径3kmくらいまでにしておこうか」とコメントしているが、ジャコメッティ展ならば半径120km(新快速からの乗り継ぎで来られる米原を想定)くらいまで告知したい気分である。

というわけで、会期もあとわずかなので取り急ぎの告知エントリーなのだが、今回面白かったのはジャコメッティといえばの印象が強い細長彫刻もさることながら、雑誌の表紙や紙ナプキンに描かれた落書き資料と共に多数展示されていた絵画作品だった。

館内では「アルベルト・ジャコメッティ展 かわら版」なるQ&A式の解説が裏表に書かれた一枚の用紙が配布され、その中でも絵画が沢山展示されていることに触れ、「人物を描いた絵画では、顔にタッチが集中して、まるで彫刻のような立体感が感じられるでしょう」とまとめられている。で、確かにタッチが集中していて、立体を見ているような感覚は得られるのだが(館内ではしきりにジャコメッティの有名な言葉「見えるものを見えるとおりに表わす」が掲示されている)、果たしてその立体感というのは、文字通りの3D的意味での立体感か?という点では少々疑問を感じないでもなかった。

むしろ私にはそのタッチの描き込みが一コマに無理矢理落とし込まれた高速アニメのように見えてしまって、基本的には静止しているはずのモデルのわずかな動きが時間軸をもって捉えられ、その動きによって立体的に見える、そんな印象だった。そして、それに慣れた目で再び彫刻を見るとこれがまた面白い。最初のうちは彫刻は絵画のように、絵画は彫刻のように見えるものだと思いながら見ていたが、彫刻には面ごとに高速アニメの上積み分がさらに載っているのである。ロダンも好きな彫刻家の一人だけど、彼の作品はどこかマッスの単位で見てしまうところがあって、それゆえにカラクリを見出すとついその先を見てないことがあるのだが、その点でジャコメッティはキューブの作品であってもずっと見続けてなければならない感覚に襲われる。そんなの私だけ?(汗)

かわら版では「枠」の話についても触れられているが、このブログは作品分析を目的にするものではないので、参考文献として、宮川淳 著『鏡・空間・イマージュ』(白馬書房・¥2.625-)を、また、今回展示数が多かったわけではないけど、それでも数点見ることのできたキューブの作品については、ジョルジュ・ディディ=ユベルマン 著『ジャコメッティ──キューブと顔』PARCO出版・¥3,600-)を挙げておく。
後者の本は絶版になってしまったのか、ユーズド価格¥8,500- ですと?!

なお、兵庫県立美術館が会期終了した後は、千葉の川村記念美術館に巡回するようだ。
主催・東京新聞の紹介サイトはこちら

by m-louis : 2006.09.28 12:02
comment

すばらしい展示をやっているのですね。
矢内原さんをモデルとした作品と本人の写真を見比べたときに、実はジャコメッティも写実的に作っていたことがわかったことを思い出します。しかし、それも矢内原さんの本を見たときに思っただけで、残念ながら実物を見たことはありません。しかも、それを日本で見ることができるなんて! 宮川さんの本も懐かしいです。
ちなみに、せっかくの建築系ブログなので(笑)。安藤さんの美術館はよくないですね。特に町側に対する建ち方があまりにも威圧的すぎる気がします。

by satohshinya : 2006.09.30 16:06

>satohshinyaさん
カタログの巻末文献資料によると、ジャコメッティをこれだけまとめて都心部で観られた機会って、実は1983年の西武美術館以来だったようですね。
川村記念美術館が12月3日まで開催してるようですが、それまでにご帰国の予定はないのかな?(^^;) さすがに矢内原さんでワンコーナー構成する企画って海外じゃ、そうはないでしょうからね。
なお、ちなみにの建築物ですが、向かいにある中学校は変わらずのようですが、それ以外の周辺の建物もみんな威圧的になってました。伝染しちゃったんですかね(汗)

by m-louis : 2006.10.01 03:19









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